初めてお金を拾った日

生まれて初めてお金を拾ったのは、保育園に通っていた時だった。あと数週間で小学校に上がる、そんなある雨の日に黄色の雨傘をさして、青い長靴をキュッキュキュッと鳴らしながら歩いていると、視線が何気なく地面のコンクリートに移った。そこに銀色に光る500円玉だった。思わず手に取って眺め、自分のポケットに入れて歩き出したが、その時に保育園の保母さんの言葉が頭に中に浮かんできた。
「お金を拾ったら正直に、近くの交番に行っておまわりさんに届けましょうね」

交番は来た道をまっすぐに引き返した所にあるが、ここからだと少々遠い。一方、自宅があるアパートには後2、3分で着く。一瞬互いの方角を交互に見て、頭の中で少し考えたが、この時は幼いが故の純粋さが打ち勝った。
わたしは来た道をテクテクと歩いて引き返し、大通りに面した場所に立つ交番の前に立った。
「すみません。お金を拾ったので届けに来ました!」
いつも保育園の保母さんにしている挨拶同じくらいの大声でわたしは交番にいたおまわりさんに叫んだ。

「ああ、えらいね~。ちょっと待ってね」
おまわりさんはわたしから500円硬貨を受け取ると自分の机の引き出しから同じ500円硬貨を取り出してわたしにくれた。
「正直に届けてくれたお礼だよ。このお金は責任を持って預かるからね」
こうしてわたしは再び自宅への帰路についたのだが、なぜか釈然としなかった。お金が渡せなかったと思ったばかりか、ただ長い時間歩いただけではなかったのかと疲れた印象しかなかった。
この体験以降、わたしはしばらくお金を拾う度に同じ金額が返されるのが好きではなかった。むしろ返ってこなかった時の方が使命を果たせた気がしていい気分になったのを覚えている。

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